どんなおはなし?
商店街によく出没する謎の女。よく紫色のスカートを履いていることから、近所ではむらさきのスカートの女と呼ばれ、都市伝説のような扱いを受けている。そのむらさきのスカートの女と友達になりたいという願望を持つ主人公が、決して接触することなく、彼女を観察し、果ては誘導していくことで、段々とむらさきのスカートの女は変貌を見せてゆく・・・
第161回芥川賞
この『むらさきのスカートの女』は2019年の第161回芥川賞を受賞していますが、今村夏子さんはデビュー作の『こちらあみ子』で太宰治賞、三島由紀夫賞、映画にもなった『星の子』で野間文芸新人賞を受賞されていて、純文学新人賞三冠を達成された、これからも大注目の作家さんです。
今村夏子さんが崇拝している作家で審査員の小川洋子さんの選評では
「奇妙にピントの外れた人間を、本人を語り手にして描くのは困難だが、目の前にむらさきのスカートの女を存在させることで、“わたし”の陰影は一気に奥行きを増した。」「ラスト、クリームパンを食べようとした“わたし”が、子供に肩を叩かれる場面にたどり着いた時、狂気を突き抜けた哀しさが胸に迫ってきた。」「常軌を逸した人間の魅力を、これほど生き生きと描けるのは、間違いなく今村さんの才能である。」
と書かれており絶賛されています。
さらに審査員のひとり山田詠美さんは
「少しも大仰でない独得の言葉で、そこはかとない恐怖、そして、おかしみの点在する世界に読み手を引き摺り込む手管は見事だと舌を巻いた。」
と評ししていました。
感想
今回、初めての今村夏子さんの作品!だったのですが、タイトルの「むらさきのスカートの女」から想像していたストーリーと全く違っていて驚きでした!
冒頭から、主人公は淡々とむらさきのスカートの女を観察し、その女の行動について語っていきます。まるで観察日記のように進んでいくお話に、私は今何を読まされているんだ・・・?と不思議と笑えてきてしまいます。
読者はむらさきのスカートの女については、目に見えるように鮮やかに想像できるのですが、主人公については・女である・むらさきのスカートの女と友達になりたいと思っている、とそれぐらいの情報しかありません。
そして主人公の行動はエスカレートし、その異常な行動に最後までどんどん引きこまれていきます。
物語も後半になってくると、所々でいきなり主人公についての情報が解放され「え?え?」とページを前に戻ったり、スリリングな展開で面白かったです。
審査員のひとり、高樹のぶ子さんの選評で
「新進作家らしからぬトリッキーな小説で、語り手と語られる女が、重なったり離れたりしながら、最後には語られる女が消えて、その席に語り手が座っている。」
とありますが、まさにその手法に「うわ〜〜〜」と感じました。
最初はむらさきの女が異常だなって思っているんですが、だんだんと、え?ちょっと待って?むらさきの女普通じゃない?むしろ、この主人公の方がやばいんじゃない?と思いだしてくる恐怖!そこがこのお話の醍醐味です。
私の好みですが、難しい文体で難解な物語よりも、疾走感ある文体が好きなので、今村夏子さんの文章はとても読みやすく、まさに駆け抜けて読むことができました。
他の作品もぜひ読んでみたいと思います!
コメント