どんなおはなし?
渋谷のトイレを美しくオシャレに刷新するというプロジェクトで一新された公衆トイレ。その掃除を手がけるTokyo Toiletで清掃員をしている中年の平山(役所広司)は、毎日のルーティンを淡々と、しかし愛おしく過ごし、生活を楽しんでいた。
暗いうちから起床し、歯磨きをし、髭を剃り、顔を洗い、作業着に着替え、植物に水をやり、缶コーヒーを買って車に乗り、スカイツリーが見えたところでカセットテープを聴きトイレへと向かう。丁寧に黙々と仕事をこなし、神社で木々を見ながらサンドウィッチを食べ、写真を撮り、午後の仕事を終えると、銭湯で風呂に入り、行きつけの居酒屋で夕食。安いアパートへ戻ると、文庫本を読みながら眠り、夢を見る。
それが平山のルーティンだ。
そんな変わらぬ平山の生活に、突然、1人の少女が「おじさん!」と尋ねてくる。
平穏な日常に、心を掻き乱す出来事が起こる・・・
ヴィム・ヴェンダースの傑作誕生
ヴィム・ヴェンダース監督といえば、私もマイベストに入るくらい大好きな『ベルリン、天使の詩』の監督さん。小津安二郎の大ファンで親日家の監督が、なんと日本が舞台で、オール日本人キャストで、日本語で映画を作った!それが、なんとトイレ清掃員が主役だという。
渋谷の公衆トイレ刷新プロジェクトのプロモ映像の予定が、長編映画に、さらに大傑作になってしまったのがすごい!
この映画で、主演の役所広司さんはカンヌで男優賞を受賞!
ヴェンダース監督も「役所は平山になりきっていた」と太鼓判を押すように、完璧な主役ぶりで、役所さんじゃなかったらここまでの傑作にはなっていなかったと思います。
平山の裏設定
役所広司さんのことは「shall we ダンス?」で見て興味を持った、そして「バベル」で確信を持った、と監督は語っていて、絶大な信頼を置いています。
役所さんは平山について、どんな過去があり、どのような人物かを監督に尋ねたようです。
そして監督は平山についてのメモを渡しました。
平山はかつてビジネスマンで、地位も高く、上流階級だった。しかし、毎日酒に溺れ、荒れた生活をするうち、人生に疑問を持っていた。死ぬ、という選択肢は難しく、心が病んでいた時、例によって酒で記憶を無くし、知らないホテルで目覚めた。その窓から木漏れ日が差し込み、木々の緑の影を壁に映し出した。遠く離れた太陽から、ただここに注がれた光の軌跡、そこだけにしか無い木漏れ日の影に、平山は救われ、生まれ変わり、全てを捨てあたらしい生き方を選んだ。日の光と、木々、役に立っていると感じる仕事、それだけで幸せで、そうした生活をしているうちに、周りの人間を優しく見つめられるようになった。平山は僧侶に近い存在となった。
メモには平山の裏設定が書かれていました。私は監督のインタビューを聞いていて泣きそうになったし、やっぱり天才だなと思いました。
僧侶というキーワードは、監督の友人のレナード・コーエンが禅に傾倒し、修行をした際、トイレ掃除もしたというエピソードがずっと頭にあったそうで、そのことも平山の物語に大きく関わっているそうです。(実際に臨済宗の和尚になったそう・・・知らなかった・・・)
音楽最高すぎる
なんといっても、音楽が最高でした!
映画自体は無音で進んでいきますが、その分、平山がかけるカセットテープの音楽が最高に生きてきます!
少し残念なことは曲の歌詞も字幕で流してほしかったことです。グザヴィエ・ドラン映画では、挿入される音楽がシーンとリンクしてることも多いため、字幕を入れてくれてあり、気が利く!と思っていました。
そうした気配りがこの映画にも欲しかった!それがあったらもっと、特にラストシーンのニーナ・シモンなんかは感情が揺さぶられたと思います。
この選曲は監督自身が「平山が聴くなら・・・」と厳選して選んだそうで、とにかく素晴らしいものでした。
本のチョイスもグッとくる
平山は寝る時やコインランドリーの合間などに読書をしていますが、そこで映る本がこちら。
特に幸田文さん(幸田露伴の娘)の『木』という随筆集は、平山にぴったりだったと思います。
大体1週間で読み切って、休みの日に古本屋であたらしい本を買うというスタイルがかっこよく、そこの店主さんも「幸田文はもっと評価されてもいいわよね。」とか一言メッセージを言ってくれるのが最高。
その他、フォークナー『野生の棕櫚』
パトリシア・ハイスミス『11の物語』が出てきました。
どの本も読んでみたくなりますよね。
総じて・・・
最高の映画でした!この映画を見て、平山の生活に憧れる人はたくさんいると思います!私もその1人。
ストイックな生活をしているけど、それを楽しんでいて、劇中に「この世界は色んな世界があって、自分の世界が人と同じ世界ではないかもしれない」と言っているんですけど、すごく開眼した台詞でした。確かに、同じ時間軸では生きているかもしれないけど、私とビル・ゲイツとは同じ世界ではない(極端か・・・笑)もっと近場で言うなら、私と、隣の家の人も違う。
違う世界の人を見てもしょうがないので、自分の世界で幸せを見つけて生きていくことが大事なんですよね。
ラストのニーナ・シモンの曲が本当に最高で、私もこんな境地に立ちたいので貼り付けておきます。
いや、日本てこんなにオシャレだっけ?と思わせる映像のオンパレード、最高の映画でした!!
どこで見られる?
なかなか見られるところが少ない『PERFECT DAYS』。U-NEXTでの視聴かDVDの購入で見ることができます。ぜひお見逃しなく!
「PERFECT DAYS」をU-NEXTで視聴
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