どんなおはなし?
主人公のわたしの家に、ある日あひるが一羽もらわれてくる。
前に飼っていた人が飼えなくなって私の家にやってきたあひるは、のりたまという名前(前の飼い主が付けた)で、たちまち近所の子供達に人気となり、静かだったわたしの家は子供たちで賑やかとなる。
両親はそれを喜び、次第に子供達を接待し始める。
しかし、ある日、のりたまが病気になってしまう。
父はのりたまを病院へ入院させ、2週間後、帰ってきたのりたまはひとまわり小さくなっていた・・・
今村夏子さんのセンスが光る!
この「あひる」は河合隼雄物語賞の受賞作で、デビュー作「こちらあみ子」が太宰治文学賞を受賞した5年後の作品。
デビュー作が大絶賛され、その後文章を書くのがプレッシャーとなっていたという今村夏子さんは、この「あひる」はとにかく書き上げようという想いで書かれた作品とおっしゃっています。
とにかく読みやすい文体、わかりやすい日本語で、あっという間に読んでしまえる短編です。
今村さん独特のワードセンスと疾走感が心地よく一気に突っ走りたくなるお話で、同時収録の「おばあちゃんの家」「森の兄弟」ともに大満足の一冊でした。
「むらさきのスカートの女」でも、執拗にむらさきのスカートの女というワードを使っていてその繰り返しが妙にツボにハマって、思わずプッと笑ってしまったのですが、今作でも「のりたま」というワードに何度笑ったかわかりません。
それがだんだん笑えなくなってくるところが今村ワールド。今回も堪能させていただきました笑
当たり前といっては当たり前だけど、考えると怖い、代替えのきく存在
病院から帰ってきたのりたまが小さくなっていた、という明らかに別ののりたまであることを、誰も何も言わず、のりたまとして受け入れているところになんとなく恐怖を感じました。
そして自分に幸せを与えられるものは、より上位互換にすり替わっていくという怖さ。
そういうことって日常にもあると思うんです。
今村さんは、直接的にそういった人間の心理を説明する文章は書かれず、ただ主人公の目線に写った事実だけを描いているのですが、その裏に潜む真実を読者に想像させる天才だと思います。
そういった事実から感じる違和感に不気味さや不穏さを感じながらも、なぜかラストは明るいという本当に不思議な作家さんで、今後も追っていきたいと思います!
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