この一冊『薔薇の雨』小気味いい田辺聖子の短編

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ひなぎくのほぼ日記

どんなおはなし?

50歳を過ぎている留禰(るね)は、30代の守屋と、別れ話をするために待ち合わせている。

2人はバーで会い、他愛もない話をしながら、やはりお互いの心地よさを実感していく。

話は守屋のお見合いの話になり、相手も良い人だったと聞く。留禰はそのまま結婚を勧めるが、守屋は留禰との関係を続けたいというのだが・・・。

作品のこと

1989年に出された短編集の表題作で、田辺聖子先生が61歳の時の作品です。

いつか行きたい!田辺聖子文学館!  写真:田辺聖子文学館HPより

田辺聖子先生の作品には歳の差カップルのお話がよく出てくるので共感しかないのですが、中でもこの『薔薇の雨』は50代と30代という結構離れた設定。短編集『ジョゼと虎と魚たち』に収録の『恋の棺』では29歳の宇禰(留禰と名前そっくり)と19歳の親戚の子という設定もあり、なかなか深みな設定を好む作家さんです。

田辺聖子先生の特徴は、やはり小気味いい文体と、関西弁な会話劇。そしてそんな中にふと混じる、みずみずしく切ない恋愛表現。関西弁なノリから、急にサガンのようなアンニュイな描写が入るのでハマってしまいます。

短編は特になんともない男女のシーンを描いているんですが、その中に歳上の女性が思い悩むことをギュッと濃縮されてて、

相手のことは好きだけど、彼の未来のためには自分が別れるしかない、でも手放したくない、でも別れなければ・・・その螺旋階段のような想いのループがリアルだなあと感じました。

好きなフレーズ

宴果ててまかる一人に薔薇の雨

たしか久保より江の句だったっけ・・・宴は終わったのだった。留禰は一人で、まかり出なければならない。そう思った時、ジャムの瓶の中に指をつっこんで、ひそかに舐めたジャムの甘さが胸にきた。物狂おしいほど守屋が好きになった、緊迫した切なさに苦しめられた。

別れ際、2人の別れを達観視していた留禰ですが、守屋がお見合いしたことを思い出して、急に胸が締め付けられ、こんなに好きだったんだと気づくシーンです。

抑えられない気持ちの表現が見事でした!

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