どんなおはなし?
優しい父と兄、妊娠中の母親、そして大好きな同級生の、のり君。
少し変わり者の小学5年生のあみ子は、日常を全力生きていた。
しかし、ある出来事がきっかけで家族の関係が崩れていく・・・
あみ子はただ、あみ子でいるだけなのに・・・
今村夏子さんの衝撃のデビュー作
この『こちらあみ子』は2010年に太宰治賞を受賞した今村夏子さんの、なんとデビュー作!
この誕生秘話がまたすごくて、文庫の帯にはこのように書かれています。
アルバイト先の事務所で「明日休んでください」と言われた日の帰り道、突然、小説を書いてみようと思いつきました。小説というものは、アルバイトをしながらでも、短いものなら多分1週間もあれば書けるだろうと、そう思っていました。 なんの覚悟も決意もなく、ただ思いつくままにノートに手書きで書いていき、夏にパソコンを購入し、しばらくしてからプリンタを購入しました。出来上がった時には、書き始めてから半年経っていました。 -こちらあみ子 文庫本帯より-
と、すでに天才エピソードがすごい今村夏子さん!
私が、今村さんの作品に初めて触れたのは芥川賞を受賞した『むらさきのスカートの女』でした。
初めて今村ワールドに触れ大ファンになりました。
その後『あひる』を読んでまたしびれ、
そして今回、読書家の間では最も評価の高い『こちらあみ子』を読んでみました。
圧倒的才能!
最初は助走といった感じで進んでいく物語、そのうちにあみ子がちょっと普通と違う、周囲から浮いている存在だと感じてきます。でももうほんとに悪気はなくて自分に正直に、ほとばしるエネルギーのまま動いていて、読者としては「あ〜そんなことしたら、嫌われちゃうよっ!」とヒヤヒヤしながらも応援するような気持ちで読んでいるんですね。
あみ子の、感情やエネルギーの沸き立ち方の表現がもう秀逸で、文章で書いたらこうなるんだなって、文字なのに感覚でわからせてくれる、今村夏子さん、天才っ!て思いました。
内容的には「結構しんどい」のですが、あみ子がそれをそこまでしんどいと思っていないところに希望があります。
もともとこの作品のタイトルは「あたらしい娘」だったそうで、人の心が、相手のことを思って嘘をついたり言い方を変えたり、悩んでいるうちに消えていくエネルギーを、あみ子は沸いたままのエネルギーで生きている。
なんだか羨ましくもあるようなド直球の一途な生き方に、何度もグッときてしまうんです。
そして今村さんはあみ子の目線で出来事を淡々と描くことによって、周囲の闇を浮き上がらせる、まじで天才作家なのです。
歌人の穂村弘さんの解説で「物語が進んで、あみ子がぼろぼろになればなるほど、何かが生き生きとしてくるのを感じる。」
という一文があり、本当に納得しました。
そして、今村さんが神様と仰ぐ小川洋子さんの太宰治賞受賞での選評がこちらです。
今回の選考会は、4人の選考委員のうち3人が「あたらしい娘」を推し、かつてないほどスムースに受賞作が決まった。とにかく、あみ子の存在感が圧倒的である。それは数頁読めばすぐにわかるだろう。この作品は、主人公のあみ子の視点で一貫して書かれており、それはそう簡単なことではない。どうしても作者の都合で、話をスムースに進めるため、全体にかたちを整えるために、余計な説明を加えてしまいがちなのだが、それを今村夏子さんはいっさいしなかった。今村さんはあみ子の自意識に踏み込まず、あみ子の網膜に留まる。そのために読み手はあみ子の瞳の一点に吸い寄せられるように、彼女の心の奥深いところに触れることが出来る。その、今村さんの勇気はすばらしい。あみ子は、自分が主人公になれるとは思わない、自分がヒロインであることに気づかない、そういう少女だと思う。そういう人物こそ物語に書かれるべきである、という物語の根本的な役割について、私は今村さんと共鳴する。だから、選考委員としてというより一読者として、この作品に出会えてよかったと思う。
神様に、こうまで才能を認めらたことは、今村さんも本当に嬉しかったんじゃないでしょうか。
ぜひぜひこのほとばしる才能を、読んでみてください!!
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