どんなおはなし?
18年間コンビニでアルバイトを続ける主人公古倉恵子。
小さい頃から変わった性格で(例えば公園で死んだ小鳥を見つけてみんなが悲しんでいるとき、母親に向かって、お父さんが焼き鳥好きだから、せっかく死んでるし、食べようと言ったり)、それが家族を困惑させていることに戸惑い、何も喋らなくなってしまった。
コンビニで働くことで、自らが社会の歯車の一つの部品でいられることに居場所を見つける恵子だったが、30代を過ぎ、やがて周囲はまたざわめき出す。結婚は?就職は?「普通」とは一体なんなのだろうか・・・
クレイジー沙耶香の異名を持つ、村田沙耶香先生の、第155回芥川賞受賞の傑作中編小説。
芥川賞受賞って何?
芸術性を踏まえた短編あるいは中編作品に与えられる賞です。
芥川龍之介の友人の小説家:菊池寛が創設し、芥川が短編が得意であったことから、対象作品は原稿用紙100枚から200枚程度となっています。
過去の受賞作の中には、ピースの又吉直樹さんの『火花』も含まれていて、話題性もあり最も売れた芥川賞受賞作だそうですが、この『コンビニ人間』もその次に売れたほど、話題となった作品です。
とても読みやすく、わりと短めで、小説初心者にも入りやすい小説です。
まだ村田沙耶香さんの他の小説は読んでいないのですが、かなりぶっ飛んでいるということなので、今後読むのを楽しみにしています。
村田沙耶香さん曰く、この『コンビニ人間』は今までの作風と少し違ったものになったそう。
村田さんは、『授乳』で群像新人賞を、『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞を受賞されている人気作家さんですが、受賞後もなおコンビニでバイトを続けている、ある意味コンビニ人間。コンビニでバイトいないと作品が書けないとまで仰る徹底ぶりで、それがこの作品にも遺憾無く発揮されています。
普通とは?
このお話の主人公の恵子は、自分の普通が、大多数の他人の普通と全く異なることに、それを理解できないけれどなぜか身内を悲しませている・・・そのことの対処として沈黙して過ごしてきたけれど、コンビニでマニュアル通り働くことで、この世界の普通にハマることができている・・・
お話の中で、恵子の言うことはズレているように見えて、でも確かにそうだよなと思えるところもあって、共感したりもします。
途中で登場する白羽という男子が「縄文時代はああだった、こうだった」とうんちくを言うシーンがありますが、狩りのうまい力の強い男に、若くて可愛い女が持っていかれ、弱いものははみ出るとあって、まさに現代で大多数の普通に合わないものを排除糾弾する傾向は全くかわらないんだな、生き物って怖いな・・・と思ってしまうのです。
救いなのは、恵子が結構ひどいセリフを世間から言われても、「ああそう思うんだな」ってケロっとしていてそこが小気味良いんですよね。
妹がなんで泣いてるかわかんないけど、そう思うならこうした方がいいのかな?と思ってとった行動が、どんどん異常になっていって・・・
実存主義=普遍的な本質でなく、個々の人間の在り方を見つめるというテーマを感じて、それをこんなに軽やかにでも歪に、しかも読みやすく描かれた村田沙耶香さん、マジで天才!と驚愕した一冊でした。
文庫でも出版されていますので、ぜひお手に取ってみてください!
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