どんなおはなし?
周りからは一人に見える。でも私のすぐ隣にいるのは別のわたし。不思議なことはなにもない。けれど姉妹は考える、隣のあなたは誰なのか? そして今これを考えているのは誰なのか――三島賞受賞作『植物少女』の衝撃再び。最も注目される作家が医師としての経験と驚異の想像力で人生の普遍を描く、世界が初めて出会う物語。 新潮社HPより引用
29歳の双子の姉妹の杏と瞬は一つの体を半分づつ共有する結合双生児。またその父親は、伯父が生まれた時その体内に宿っていた胎児内胎児であるという稀な境遇の家族。
しかし生活スタイルは普通と何ら変わらず、杏と瞬は双子として学校にも通い、工場で仕事もしている。
ある日叔父が亡くなって知らせが入り、深く考え込む杏。その思考を瞬も夢のように共有しある境地にたどり着く・・・
第171回芥川賞受賞作品
2024年の第171回芥川賞受賞作『サンショウウオの四十九日』。
結合双生児の姉妹というショッキングなテーマでとても話題となった作品です。
作者の朝比奈秋さんは医師だったそうですが、病気と健康な人、障害と健常の境に違和感を覚え、小説を書き始めると「小説病」に取り憑かれ、医師を辞められたのだそう。このお話にも医術的な説明に信憑性があって、物語の中にもすんなりと溶け込んでいて見事でした。
姉妹の思考の渦に飲み込まれる
とても哲学的な要素が多いお話でした。
読んでいると杏と瞬の思考や意識が入り乱れ、今はどちらの考えなのだろうと混乱します。そうした雰囲気もリアルで、脳を共有することの未知の感覚ってこうゆう感じなんだろうか、すごい想像力だなと驚いてしまうのです。
今作で言えば杏と瞬、両方の気持ちになりました。杏とくっついているときは、心から一人になりたいと思いました。一人だけの体を持ちたいし、一人だけの思考、気持ち、感覚になりたい。瞬とくっついているときは、二人のままずっと溶け合っていたい、二人で本当によかった、と思っていた。
と朝比奈さん自身おっしゃっていますが、姉妹の思考の渦に飲み込まれるような体験ができる小説だと思います。
ラストはハラハラとする展開もあり最後まで目が離せませんでした。
思考と意識とは何なのか、また死生観についても考えさせられるお話でした。
まだ単行本でしか出版されていませんが、ぜひ読んでみてください!
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