この一冊『桜桃』太宰治の傑作短編

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この一冊

どんなおはなし?

子供より親が大事、と思いたい。という、名書き出しで始まる短編小説。

毎日が幼い子供との喧騒的な日々の中で、暗に妻に嫌味を告げられ、飲みに行った・・・という夫婦喧嘩の話。

表面的には中の良い夫婦だが、病気かもしれない長男のことも話し合えないような関係であり、親は子供の下男下女のようだと嘆くが、飲み屋で出された桜桃(さくらんぼ)を見て子供の姿を思い浮かべ、苦々しくその甘さを味わう・・・

1948年の作品

これは太宰治が亡くなる年、1948年に発表された短編です。

前年には『ヴィヨンの妻』が絶賛され、『斜陽』が大ヒットとなっている頃。

人並みにモラルある思考は持ち合わせていながらも、どうしても行動が伴わず、自己嫌悪に陥る男の姿を、こんな短編で描き切っていて痺れました!

「子供より親が大事、と思いたい。」という書き出しが本当に見事で、

「子供より親が大事」そんな非モラルな言葉、間違っても口に出せないような文章ですが、「思いたい」というところで、本当はそうは思っていないけれど、思えたら、思えるのを許してもらえたらラクなのになあ・・・という、

実は子育てをしている親が心の奥底で思っている悪魔のような想いのよぎりを、さらりと言ってのける、そうして自己嫌悪に陥る様を、読者は代弁者のように思えるのではないでしょうか。

この頃の太宰は胸の病に侵され、女性関係もなんやかんやあり、長男の病気にも気を悩ませ、良い家庭人にはなりたいと思いつつも行動が伴わず、自己嫌悪にいくたびかか陥り、臆病者で死ぬこともできず、それを世間に「いつ、どうやって死ぬんだ」と期待され、小説家仲間からの批評に怯え、とても生きにくかったと思います。

根っからの、破壊人だったらここまで悩まず、太宰が本当はとても優しく、家族で幸せにまともに暮らすことをできることなら夢見ていたからこそ、小説でその片鱗に触れ、人間の弱さに自分を重ね、それを読者は愛してやまないのだと思いました。

「桜桃」名言

生きるという事は、たいへんな事だ。あちこちから鎖がからまっていて、少しでも動くと、血が噴き出す。

子供よりも親が大事、と思いたい。子供よりも、その親のほうが弱いのだ。

どこで読める?

『桜桃』は人気があり、いろんな装丁で書籍化されているので、自分の好きな装丁の本を手に取ってぜひ読んでみてください!短編なので、本をあまり読まない方にも読みやすいと思います。

また、純文学というとちょっと敷居が高い・・・と思われても、太宰の文はとっても読みやすくて入りやすいと思います。

ちょっとさわりだけ読んでみたい・・・という方にはKindleもおすすめ。『桜桃』は無料で読めますので、気に入ったら書籍で手元に置いておくのも良いですよね。

Amazon.co.jp

もう少し涼しくなったら、いよいよ読書シーズンです!ぜひぜひ『桜桃』読んでみてください!

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