この映画について
この「日の名残り」はブッカー賞を受賞したカズオ・イシグロの小説が原作となっていて、監督はジェームズ・アイヴォリーです。
カズオ・イシグロといえば「私を離さないで」など数々の名作があり、2017年にノーベル文学賞も受賞しています。
「日の名残り」は晩年の執事の男の回想を描いた作品で派手さはないのですが、じっくりと染み渡る渋い名作です。
どんなおはなし?
1939年のイギリス。ダーリントン卿の大きなお屋敷を、完璧に仕切っている執事スティーブンス(アンソニー・ホプキンス)は、女中頭としてケントン(エマ・トンプソン)という女性を雇います。
美しくウィットに富み、女性らしい気遣いもできる彼女に、ほのかな好意を抱くスティーブンス。
しかし、仕事第一、品位こそ全てのスティーブンスにとって恋愛は禁忌。
ケントンも彼に好意を寄せていますが、一向に距離の縮まらない関係に苛立ち、息抜きで会っていた仕事仲間からプロポーズされてしまいます。
そのことをスティーブンスに伝えても「おめでとう」とつれない態度。
ケントンは絶望し、結婚を決めお屋敷を出る事になるのですが・・・。
背景には戦争の影が
メインは執事と女中頭との表沙汰にならなかった恋の話ですが、ベースには戦争の影が渦巻いていてとても考えさせられます。
ちょうど英仏がドイツに宣戦布告して大戦に投入する前、このダーリング卿のお屋敷で重要な国際会議が連日開かれていました。
ダーリング卿は、スティーブンスはじめ使用人たちにも優しく、紳士で、善良な人でしたが、その善良さが利用され親独派として、後々糾弾される事になります。
作中、嫌味な政治家が執事のスティーブンスに政治に関する難しい質問をしてきます。
「申し訳ありませんが、ご期待に添えません」と彼が答えると
「ほらな!こんなに無知なものに結論を委ねなくても良い」と、彼を無知な市民の1人と例え、政治家のみで決断をすることが正しいと侮辱したのです。
スティーブンスは暇があれば「知識を広げたい」と本を読むほど、博学でした。
答えは分かっていたでしょう。
また、ダーリング卿が間違った道に進むのももどかしかったでしょうが、執事として品位を保ち続け、この世界の車輪の中の1人として、仕事に徹していました。
その仕事ぶりは、人間らしさには欠けるかもしれませんが、お見事と言わざるを得ません!かっこよかったです。
名優たちのあれこれ
いまいち、恋愛と思えなかったのは、アンソニー・ホプキンスとエマ・トンプソンがちょっとミスマッチかな〜と思った事です。
だって、アンソニー・ホプキンスの見つめ方怖いんですもん!笑
執事と政治絡みの側面から見れば、完璧ですよ?!
エマ・トンプソンは完璧で、素晴らしい演技でした。
ヒュー・グランドも出てきて、あれ?出てたっけ?とビックリ!
同じくジェームズ・アイヴォリー監督の「モーリス」でも出演していたヒュー様。イギリス風アンニュイな美を表現するには欠かせない存在か。それにしてもアイヴォリー監督の映画は気だるく美しいですよね!
以前見た時は全然印象に無かったなあ笑
それもこれも、アンソニー・ホプキンスの存在感が強すぎるんですよね。
日の名残り
タイトル「The Remains of the Day」を日の名残りと邦題つけたのは天才ですね!
作中「夕方は1日で一番良い時間よ。足を伸ばして楽しみましょう」というシーンがあります。
私は、1日の中で夕方が一番嫌いで、焦ってしまうんです。
介護施設で働いていた時も、「夕方症候群」というのがあって、利用者様は何か気持ちが焦り、帰宅願望が出て落ち着かなくソワソワされる方も多く見えました。
人生に置き換えてみると、人生の終盤を迎え「人生ってなんだったんだろうか」と焦る気持ちに似ているのかもしれません。
でも、この映画を見て、それは実は人生で一番良い時間で、足を投げ出して、日の名残を楽しみたいと思うようになりました。
今なら、あの時焦っていた利用者様に
「大丈夫ですよ、この時間をリラックスして楽しみましょう」
と声をかけてあげられるのにな・・・
みなさんも、楽しんでいきましょうね!!
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