どんなおはなし?
のどかな観光地、オーストラリアのタスマニア島。
両親と暮らすマーティンは、アスペルガーを患っていて、同級生からは名前を文字って「ニトラム」(バカ・間抜けなどの意味のスラング)という蔑称で呼ばれ笑い物にされていた。
ある日、マーティンはサーフボードを買う資金を作るため、近所に芝刈りのバイト伺いをして回るうち、一軒の豪邸にたどり着く。
そこにはたくさんの犬や猫を飼っている、元女優の孤独な中年女性ヘレンが住んでいて、芝刈りや犬の散歩などをマーティンに任せてくれるようになり、2人は意気投合し一緒に暮らすようになる。
一方、マーティンの両親は夢であったゲストハウスを営むための物件を見つけ、購入する目処がたった途端、裕福な老夫婦に先を越されて購入されてしまう。その後に起こる数々の不幸に、マーティンの心はどんどん蝕まれ、モンスターのように膨らんで、ある事件を起こしてしまうのだった・・・
本当に起こった話
1996年4月28日に、オーストラリアのタスマニアで起こった実際の事件を元に描かれている本作。
タスマニアのことは映像で見たことがありますが、本当に自然豊かで美しい島で、一度は訪れて見たい場所でした。こんな恐ろしい事件が起こる場所とは到底信じられません。
マーティン・ブライアントは小さい頃、不審火で検挙されていて、テレビのインタビューで「もうやらないね?」という質問に、「またやる」と答えています。
また、母親の話で、小さい頃一緒にかくれんぼをしていたら、いつも隠れる場所に居なかった。泣きながら必死で探し、周りも大騒ぎして疲れ果てて車に戻ると、後ろの座席で一部始終を笑って見ていたこともあったそう。
作中では、夢の物件が手に入らず憔悴しきった父親を励ましながらも殴るというシーンもありました。
とても、心優しい面もありながら、人の悲しみが理解できない、冗談の加減がわからないといった人柄が垣間見え、ゾクっと鳥肌が立ちます。
また、ものすごく簡単に銃が手に入ってしまったのには驚きました。日本では考えられないことです。オーストラリアではこの事件をきっかけに銃規制が厳しくなったそうです。もっとも規制の緩かったタスマニアも厳重に規制されたそうですが、もう2度とこのような事件は起きてほしくないと思いました。
監督曰く
「犯人からの視点を取ることによって、いとも簡単にこのような事件が起こってしまうこと、社会的に孤立していること、簡単に銃にアクセスできてしまうことの危険性を描きたかったのです。この映画に出てくる人たちは、皆、誰かと一緒になりたい、誰かと繋がりたいと思って絶望的になっている」
「サーファーは、オーストラリア社会における、男の象徴であり、理想です。荒々しい社会の中で生きてゆくためには、男性はタフで決して妥協せず、肉体的であらねばならない。そんなオールドスクールな男性像が未だ理想とされている。そういう人に男の子は憧れる。一方で、その男らしさは脆弱でもある。最も男らしい種族とされるサーファーにもしあなたがなれなかったら、どう生きてゆくのか? その答えがまだオーストラリア社会にはありません。そんな男性像の正当性も問いかけたかった」
と、本作の意図について語られています。
先日読んだ『コンビニ人間』ととてもリンクする内容で、きっとこれは社会的な問題なんだろうなと思いました。
ケイレブ・ランドリー・ジョーンズの演技がすごい
この映画は、マーティンがいかにしてこのような事件を起こしてしまったか、その心の動きを丁寧に描いていますが、主役のケイレブ・ランドリー・ジョーンズの演技はものすごかったです。
イケメンのケイレブですが、実際のマーティンもすごくイケメンで、作中でヘレンが「俳優みたいね」というシーンがありました。
ケイレブといえば、直近だとリュック・ベッソンの『ドッグマン』でも、心優しき異常者を演じていて、それが十八番のようになっている気がしますが、実際はバンドマンでもあるそうで、とても多彩ですよね。
この『ニトラム』で、ケイレブはカンヌで男優賞も受賞していて、これからどんどん活躍しそうな要チェックの俳優さんです!こちらはAmazonプライムビデオで配信中です。
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